経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.043 特定非営利活動法人クロスフィールズ(小沼大地氏)

「企業は社会の公器」という原点に企業を戻せるのが今の20~30代 特定非営利活動法人クロスフィールズ(小沼大地氏)


「留職者」の活動

小沼:
昨年Marsという会社がボストンキャリアフォーラムで学生に向けておこなったプレゼンテーションの内容を見せてもらったのですが、びっくりしました。会社説明はゼロで、「われわれはこんなプログラムをやっています」と、NGOへ派遣した社員のビデオを見せていたのです。しかも、Marsのブースには他社に比べて圧倒的に人が集まっていました。
採用という観点では、もしかすると「今までのビジネスモデルをうまくまわして一緒に成長していきましょう」と言うよりも、「一緒にうちの会社と世の中を変えるようなことをしましょう」と言った方が、破天荒で何か新しい価値をつくり出せるような人材を引き付けられるのかもしれませんね。

樋口:
日本だけの話ではないというのは興味深いですね。今ある会社の資産やブランドではなく、一緒に何ができるかという志の部分を重視しているのですね。

彼らにとっては「うちはリソースがあります。使ってください。」と言ってくれる会社が一番魅力的に映ると思います。

そうすると、そういったことを求める人達と会社の関わりはいわゆる「社員」という感じではないですね。アウトプットを管理して毎月の給料を払うというイメージとはそぐわないように感じます。

私はたまたま会社という組織を出ましたが、企業の中にいるからこそ出来ることもあると思います。実際に一緒にコンパスポイントをつくった者は「会社の中でやっていきたい」と言っています。
日本は大きな組織が動いてやっと周囲も動き出す傾向が強いですし、大きい物を変えるのは外からではなく中からやった方がいいと思います。 何も今会社で働いている人たちが特別なことをする必要はないのです。日々取り組んでいる事が世の中に対してどういう価値を生んでいるかを感じているかどうかが大切であり、必ずしも会社の外に活路を求めるべきであるということではありません。そういう働き方をする人が多い会社は強いと思います。酒井穣さんは『職場コミュニティーにとっては、いまやNPOなどの社外のコミュニティーは「競合」になっている』とおっしゃっていますが、本当にそうだな、と思います。 私は会社を応援する立場として、社会を変える機会を社外に持っていかれては駄目だ、と思っています。企業活動はそもそも社会のためにやっていることですから、そう思わせるように社員を働かせないともったいないですよね。
今社会に対する興味・関心はすごく増えています。それはインターネットを経由したものです。フェイスブックやツイッターを使えば、今まで個人ではアクセスできなかった情報にも、幾らでもアクセスできますから。今はむしろそれを会社が縛っているとも言えるでしょう。昔は会社にいると世界が広がったのだと思います。会社の中にいろいろなものがあるから土日も会社で集まると楽しい、という世界があったのでしょう。今は個人で夜にフェイスブックを介して見た世界のほうが会社より広い世界につながれます。このような環境や人の変化に会社の組織が合っていないのです。社会へ興味を持っている人達が、どうやったら活力を持って組織に貢献してくれるようになるのかを会社は考える時に来ていると言えるでしょう。

先ほど企業を応援する、という言葉がありましたが、小沼さんはなぜ会社を応援するのですか。

日本という国は今まで企業の成長と共にありましたし、そのリソースは今もすごく強いです。これは誰もが認めるところでしょう。それを壊してゼロからつくるよりは、それを動かした方が良いとシンプルに思うのです。今日本企業が元々の志とは全く違う方向に進んでいるかと言えば、そんなことはありません。ただし、良いことをしているのに、それに対して価値を感じない働き方をしてしまっているなど、ちょっとした掛け違い程度の問題なのです。ですから会社を変えるのは最初はすごく大変でも、やはり私は会社に寄り添って活動していきたいのです。

なるほど。少しお話が変わりますが、小沼さんがこのような価値観を形成された過程に非常に興味があります。先ほどの原体験以外に、企業の外から石を投げるという選択に影響を与えたのは何なのでしょうか。

最近思い出したのですが、小学校2年生の時の授業で原体験がありました。ある時、国語の授業で先生の投げかけた質問に対する答えが私ともう一人とで別れたため、クラスを二つに分けてディスカッションをしたことがありました。初めは半々くらいだったのですが、時間が経つにつれて私の稚拙な話のせいで味方を失い、最終的に1対39になってしまいました。「でも僕はこう思うんです」と一人で主張しながらも泣きそうになっていた時に、先生が「はい。皆さん、小沼くんに拍手!」と言ってくれ、その後、わーっと拍手をしてもらったという経験があります。