経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.043 特定非営利活動法人クロスフィールズ(小沼大地氏)

「企業は社会の公器」という原点に企業を戻せるのが今の20~30代 特定非営利活動法人クロスフィールズ(小沼大地氏)

企業で働く人材を新興国のNPOへと派遣し、そこで本業のスキルを活かして社会課題の解決に向けた実践業務を行う「留職」プログラムの運営にあたるNPO法人クロスフィールズ。NPO立ち上げメンバーとして代表理事を務める小沼 大地 氏にクロスフィールズ立ち上げの経緯や、若者の価値観の変化についてお話をうかがいました。

樋口:
まずは組織を作られたところからお話をお聞かせいただけますか。

小沼:
もともとクロスフィールズの活動は、コンパスポイントという団体の活動で出てきたアイディアの一つを事業化したものです。コンパスポイントは大学時代のラクロス部の仲間をベースに作った団体です。大学卒業後、私は青年海外協力隊でシリアに行ったのですが、その時に訪ねてきたラクロス部の親友と「せっかく普通の道を外れて皆とは違う方向へ行っているので何か一緒に面白いことができたらいいね」「社会を変えるような何かをビジネスと絡めてやっていこう」と漠然と話したのが元々のきっかけです。
その後日本に帰国してコンサルティング会社に入社したのですが、ふと入社するのが怖くなってしまいました。自分は「何かをやりたい」という情熱を持っているが、果たしてその情熱を入社してからも保つことができるだろうか、という不安がよぎったのです。その時既に社会人になっている昔の仲間を見て、就職活動の時には「こんなことやりたい」と希望を抱いて入社したにも関わらず、結局のところ希望が実現できておらず、学生時代と比べて輝きが少し失われてしまっているように感じたのが不安に感じた理由です。

それはさみしいですね。

ちょうど同時期にシリアに訪ねて来てくれた例の親友も会社に入社しており、話をしていたところ、同じような危機感を持っていることが分かりました。そこから月に1回くらい集まるようになったのです。初めは部活の同期4人から始めたのですが、それぞれが「面白くて熱い人間だ」と思う人を連れてくるようになり、次第に同世代の面白い仲間たちが集うようになりました。そこで集まるだけではなく、仕組みとして確立したいと思い、既に熱い想いを持って活躍されている方をお呼びして話を伺い、ディスカッションをして、その後懇親会をするというスタイルに変えました。この活動を初めて4年ぐらい経つのですが、思っていた以上に同じ危機感を持っている若手って多いんだな、と感じています。現在コンパスポイントの活動では、毎回30~40人ぐらい来てくれており、これまでに延べで800人から900人ぐらいが参加してくれました。

危機感とは何に対するものなのでしょうか?

自分がやりたい事が会社の中では実現できないのではないか、会社に属しているうちに自分がやりたい事が消えてしまうのではないか、という危機感です。または、日本社会に対する危機感というのもあります。


コンパスポイントの様子

先ほど会社に入って得る仕事と、やりたい事が違う、というお話がありました。昔は今とは違って会社人間で満足している人が多かったように思うのですが、その世代を見て思う事はありますか。

羨ましいです。「会社人間でいることで充実を感じられた人たち」というと、少しネガティブなトーンに聞こえますが、今の60代以上の方々は、素晴らしい時代を歩んでこられたように思います。その世代の方は、何もない状態から日本が急成長する時代をつくっていった方々です。そんなに楽しい仕事は他にはないですよね。実際に、60代70代の方に話を伺うと、彼らは口をそろえて「当時は良かった」と言いますし、今自分が求めていることもそれに近い気がしています。

60代以上の方々の経験したことが、今の世代の求めていることと同じだ、と言うことなのでしょうか。

今年1月の日経新聞の「C世代駆ける」という特集に私どもの活動が少し取り上げられたのですが、その記事の一部に「企業を引退した方、引退しようとしている方の世代と今の20代は非常に考え方が近い」という分析があり、とても共感しました。私たちの世代は、もう1度新しい時代を創りたいという熱を持っている世代だと私も思います。
今は全てシステムが出来上がっており、多くの企業は、既存の製品やサービスを少しずつ改良していくことに躍起になっているように思います。生意気なことを言うようですが、それではダメで、全く何もない所から何かをつくらなければ、日本企業は行き詰まる時が来てしまうと私は思うのです。
そして、残念ながら日本の社会や今企業が戦っているフィールドの中でそういった経験をするのは難しいです。かえって途上国のNPOや社会起業家の現場、老人ホームなど、社会問題を解決しようとするとゼロベースの発想ができ、面白い舞台が広がっています。そういった所に飛び出していくのを後押しするような仕組みが会社であると面白いんじゃないかな、と思うのです。
私は同世代の情熱を持っている仲間たち、危機感を持っている仲間たちの情熱を消さずに形にするためには何ができるのかをずっと考えてきました。今クロスフィールズで実際に運営しているのは新興国「留職」プログラムという、企業に対する教育プログラムのコーディネートです。
社員を一定期間新興国のNPOや行政機関に派遣して、そこで本業のスキルを活かして社会課題の解決に取り組んでもらうのです。一定期間会社という枠からはずれて物事を発想し、それを自分の力で実現することで、何か新しいイノベーションを起こす機会を提供しているのです。