
「留職者」の活動
樋口:
すごく面白いお話ですね。今のお話を伺っていると、「現在の若者は保守化している」という世間でよく言われている若者論との差を感じます。60代70代の方々と同じようなモチベーションをもって危機感を感じている若者と、組織の中で満足しており、余計な事は考えない若者はそれぞれどのくらいの割合でいるとお考えですか。
小沼:
割合を言うのはなかなか難しいのですが、たとえば就職活動の時点でも、間違いなく二極化しているでしょうね。保守的になっている人もいると思いますし、逆に危機感を覚えて、就職活動をせずに全然違う事に取り組む人は私の周りでも多くなっています。ただし、保守層が全く危機感を持っていないかと言うと、そうではないと思います。保守的に走る裏返しには、日本企業はこのままではいけないという危機感が強くあり、その中でまず自分を守らなければならないと考えた結果、保守的にならざるを得なくなっているのが実情だと思います。企業に対して危機感があるので公務員になりたい、となる。このように保守的に走るのが危機感の裏返しだとすると、危機感を持っている人の数は多いというのが私の周りを見ていて言えるところです。
それぞれが持っている危機感や問題意識にはそれほど差はないけれども、自分を守るか、自分の夢を実現するかで行動に差が出ているのですね。
そうだと思いますね。最終的に保守的な行動に走る人は以前よりも増えているのかもしれませんが、一方で「変えていかなければいけない」と行動を起こす人たちも増えています。そのうちの一部が、「社会起業家」と言われる部類です。これまでであれば日本のトップ企業に入るような人たちがNPOのような社会貢献の業界に入るという流れが2000年ぐらいから増えてきています。酒井穣さんの本にも書いてあったと思うのですが、そういった流れは、まさに危機感を行動で表していこうという社会の状況なんだと思います。
例えば、日本のトップ企業の人事部長と話をしていても、「トップ層の学生が来なくなった」と言うのです。優秀なトップ層の学生たちが企業を見放し始めており、日本の新卒採用は難しくなってきているではないか、と思っています。小沼さんご自身もマッキンゼーを退職して、現在の団体を設立されていますよね。これまで大企業が提供してきた安定性や仕事のフィールド、給与の高さというものが、トップ層の学生を引き付けなくなってきているのでしょうね。
われわれの世代の価値観が変容しているのが一つの要因だと思います。よく言われることですが、お金やブランド、車などの目に見えるステータスに対する興味は下がっています。われわれの世代はお金ではない何かで自分たちの価値観を守ろうという動きがあるように思います。そうならなければ自分たちは幸せになれない、という危機感が裏にあるのでしょう。

価値観を守る、とはどういうことなのでしょうか。
私たちの世代は、新しい価値観を設定しない限りは上の世代と同じだけの自己肯定ができないのです。今まで日本の企業人は成長が前提となっている市場で生きてきました。しかし、成長が前提にできない今、われわれの世代が上の世代と同じものを目指しても絶対に勝てません。これも日経新聞に掲載されていた調査なのですが、「いつ、どの世代を羨ましいと思いますか」という質問に対し、60代は「自分たち」と答え、20代も「60代」と答えていました。これは世代としてパラダイムを変えなければいけないと、防衛本能を働かせている結果ではないかな、と感じています。
もう一つは原体験を持っているからだと思います。私たちの世代は、ITバブルの崩壊を大学時代に経験している世代です。「大企業に定年まで勤めること=幸せ」ではないと気付いた世代は、時価総額が最大の会社をつくることを目指すようになりました。これこそがカッコいいことであり幸せなんだ、というのが2000年辺りの風潮だったと思います。しかし、それも村上ファンドやホリエモンショックで崩れてしまいました。そこで、私たちは幸せや自己肯定の指標が分からなくなってしまったのです。
そこに影響を与えるもう一つの原体験が、小学校の時に体験した阪神淡路大震災です。震災を経て、ボランティアやNPOという「社会を変えていく、社会を良くしていくことが楽しい」という言説がどんどん膨らんでいくのを見てきました。この2つの大きな影響を受けて、お金もうけではなく、社会を良くする方向に向かった方が自分たちは熱い時代を生きられるのではないか、という嗅覚が働いたのだと思います。個人として選び取ったというよりは、世代としてのパラダイムシフトといったイメージです。おそらく人間としての本能的なレベルで、私たちの世代は、これまでの価値観とは全然違う「社会を変えたい」という価値観に落ち着いてきているのでしょう。

