経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.043 特定非営利活動法人クロスフィールズ(小沼大地氏)

「企業は社会の公器」という原点に企業を戻せるのが今の20~30代 特定非営利活動法人クロスフィールズ(小沼大地氏)

樋口:
価値観の変化は本能なのですね。この先、危機感を持って行動している方々は社会もしくは企業にどのようなインパクトを与えていくのでしょうか。

小沼:
これは私の持論ですが、会社を原点回帰させる方向につながっていくのではないかと考えています。日本の企業は、もともと本当に素晴らしい創業の理念や社訓のようなものに支えられて経営をしています。松下幸之助さん然り、近江商人然り、企業は社会貢献をするものである、という世界観の下に企業はありました。今私たちの世代が求めているのは、まさにそのような日本企業の根底に流れている部分です。ですから私たちはその当時の価値観に揺り戻しを起こす事ができる世代なのではないかな、と思うのです。

原点回帰というのは、戦後この国の経済をつくり上げていった人たちと同じ志に戻るということですよね。ところで企業の中に残っている仲間はそういうことに対して無力なのでしょうか。


「留職者」の活動

無力ではありません。一見熱さとは無縁そうな方でも、熱さを秘めている人は多いです。私が営業活動をする中でも、特に会社の理念などを伺った際には、どんな方からも素晴らしい話が伺えますし、その会社の理念やビジョンを話している時の企業人はすごく生き生きとして見えます。これまでも、企業の方との話の中で、理念やビジョンのような深い話をすることで、同じ熱さが共有できたと感じられたことが多くありました。しかし、素晴らしい理念があっても、その理念と日ごろの業務とがかい離してしまっているところに問題があると思います。そして、そこをつなげるのが「顧客のニーズを満たしているという肌感覚」であり、そこにマッチするのが途上国の現場だと私は思っています。先ほども申し上げた通り、今日本社会で何かやろうとしても、既にでき上がった制度があります。しかし、電気も何も通っていない途上国の村へ行き、そこで自分たちに何ができるのか、社会が良くなる事とは一体何なのか、を考えながらビジネスをしていく。そうすれば、戦後日本が急成長した当時の状況が経験できます。例えば花王という会社は「とにかく世の中に清潔を届ける。そこさえやっていればお金はついてくる。」という理念をお持ちです。こういった理念を実感するには実際に清潔になっていく現場を見ればいいと思いうのです。例えばトイレ一つをとっても、今まで野原で済ませていたのを、個室が使えるようにする。それを喜んでいる人の顔を見れば、「こういうことか!」と思えるはずです。ですから、私は途上国に人を派遣するのは、企業が原点に戻るための一つのカンフル剤になるのではないかと思うのです。ですからクロスフィールズでは「留職」を通じて社会的な価値の創出という企業活動の根本に立ち返る経験を届けることを目指しています。
実はこのような言い方をし始めたのはごく最近です。それまでは単純に「グローバル人材を育成しましょう」と言っていたのですが、「会社の原点に戻りませんか」「会社の活力をもっと、生き生きとした会社にしましょう」と言うようになってから、より興味を持っていただけるようになりました。

「留職」という取り組みは日本ではまだあまりポピュラーではありませんが、海外ではどうなのでしょうか。

実は今、アメリカでの導入が急速に進んでいます。以前アメリカに行き、「留職」を導入しているIBMや、ファイザー、ペプシ、FedExにこの取り組みを導入している理由をヒアリングしてきました。
その理由は大きく分けて2つありました。1つは、グローバル人材の育成です。日本でいうグローバル人材は、英語が話せる人ですよね。アメリカでグローバル人材と聞くと不思議な感じがしますが、彼らのグローバル人材の定義を聞いたところ、「今までは既存のアメリカ型のビジネスのやり方を新しい市場に教えて、うまいやり方を再生産していくという方法をとっていた。しかし、これからはそのやり方が通用しない。中国やインドでは、その国のやり方を理解してその国の人たちと一緒になって物事をつくりあげていくことが必要だから、そういうことができる人材が必要だ。だからMBA型の人材育成ではなく、新興国への派遣型での人材育成が必要となった」との答えが返ってきました。
もう一つの理由は優秀な人材が欲しいからだそうです。なぜ途上国への人材派遣が優秀人材の獲得につながるかといいますと、世代の価値観の変化は日本だけでなく、世界レベルで起こっているからです。ジャスミン革命やウォールストリートのデモをしているのも、全て20代や30代です。リーマンショックや9.11という原体験を持つ世代が「この世界は何かおかしい。」と感じて行動を起こしているのです。先ほどの価値観の変化の話は日本だけではなく、アメリカでも当てはまっていると言えるのでしょう。このように世の中を変えることに対して価値を見出す20代30代を惹きつけるために、アメリカの大手企業ではNPOへの人材派遣を取り入れているのです。