樋口：
今のお話はハイレベルな経営者育成のようなお話ですね。ところで、岩瀬さん以下の方々の育成はされているのでしょうか。

岩瀬：
育成はこれから腰を落ち着けて取り組む段階ですが、研修のほかに外部から講師をお招きして社内で勉強会をおこなったりもしています。私は社外で人にお会いする機会が多いので、おもしろいと感じる方がいたらお願いして、社内勉強会の講師をしていただくのです。どれだけ優秀な人材から刺激を受けられるかは成長を左右するポイントですから。また、若手に論文を書かせて保険の学会誌に投稿させる取り組みも行っています。最初こそ、自分には書くことがない、経験がないと躊躇しますが、苦労して書き上げた後はやはり嬉しいようです。中には賞を受賞した者もいました。実はこれは出口が会社員時代におこなっていたのをまねしたのです。一見乱暴なやり方のようにも見えますが、情報や経験を整理して発信し、世に伝えることで様々な人からフィードバックをもらえる良いトレーニングになるのです。よく「書く資格」「語る資格」は経験を積んだ人だけに与えられるものだと捉えられがちですが、私は、実際に「書く」「語る」という行動を起こした人すべてに、その資格があるのだと考えています。

お話は変わりますが、以前出口社長は「当社の社員はきっと何かを粋に感じて入社したのだろうし、働き続けているということは、その仕事を通じて何かを成し遂げたいという想いがあるのだと思う。」とお話しされていました。この点について、岩瀬さんはどのように感じられているのですか。

私は個々人の成長以上に、大きな社会的意義があるものに参加している、という意識の方が大きいのではないかと思います。自分達が世の中で取り上げられたり、ポジティブに語られたりすることが、この組織の一員であることへの誇りにつながり、一番のモチベーションになっているのだと思います。たとえば当社ではテレビCMを始めました。この効果を考えると、「何件契約がとれた」というのも一つの効果測定の指標なのですが、それ以上に社員のモチベーションを上げるという数値化できない効果もあると思うのです。また、当社では社員全員が会社を代表して社外に向けて発信することを大切にしています。たとえば設立当初から社員ブログをおこなっていますが、ほぼ社員全員が交代で書いていますし、地方のミニ番組の枠があれば、その地方出身の社員に出てもらうようにしています。さらに取材にも様々な社員を登場させるようにしています。小さい会社なので「私がライフネットだ」という感覚を持ち続けてほしいのです。加えて、当社は社員個々人が成長して自己実現できるプラットフォームでもありたいと思います。これは会社が伸びているから言えることなのかもしれませんが、会社のために必死に働くよりも、みんなが会社を使って成長し、良い機会を得て、様々なことに取り組むことが結局のところ会社の成長につながりますから。

最後に、岩瀬さんの人生観や価値観をお伺いしたいです。今までの人生の中で何かを選択する機会はきっと沢山あったのではないかと思います。その時の選択の考え方や、価値観の拠り所となるものは、どのようなものでしょうか。

ある決断をするにも、大きな流れに逆らうのではなく、その時の直感で正しい流れを判断しています。ですから、そのように決めたら後悔することはありません。わかりやすい例では、過去に司法試験に合格したのですが、弁護士にならずにコンサルティング会社に入社したことです。当時は、その選択にそこまで確信を持てずにいましたが、その会社を訪問した時に、会社の雰囲気やオフィスの匂い、出会った人たちに魅力を感じたのです。今まで歩んできた道を振り返ると、正しい選択をしてきたと感じるので、直感には揺るぎない自信があります。今自分がどういう流れにいるのかを感じながら判断をしていると、どんどん新たな流れができており、さらに変化していくのを感じます。

そのような柔軟さが岩瀬さんの魅力なのでしょうね。本日は採用へのこだわりや御社の強さの秘訣を知ることができ、大変興味深かったです。貴重なお時間をありがとうございました。

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