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ベンチャーだからこそ優秀な人材を採用すべき ライフネット生命保険株式会社(岩瀬大輔氏)


社内勉強会の様子

樋口:
私自身は起業後に自社の採用をして初めて、人柄が良いこととビジネスパーソンとして魅力的であることは随分違うのだと学びました。そこで質問なのですが、岩瀬さんは地頭の良さや人柄の良さについてどのようにお考えですか。

岩瀬:
当社のように新しいものを創っていく会社ですと、地頭の良さや自分で考え判断する力は大変重要です。ですから当社の面接でもこの部分は重視しています。ただし、仕事ができるだけではなく、やはり明るさを兼ね揃えた人材の方が良いですね。

明るさというのは冒頭のお話でも出ましたね。

正社員として採用した場合、私は経営者としてその先30年程付き合っていくことになりますから、自分の家に家族として迎え入れることと同じ感覚なのです。ですから一緒に働きたいと思えることが大切なのです。もちろん自分の好きなタイプだけを採用していてはいけませんから、そこは非常にセンシティブです。

その部分で譲ったことはないのでしょうか

面接は短い時間ですし、応募者のコミュニケーション能力にも差がありますから、良さそうな気がしても、確信に至らないケースもあります。そういう場合は現場の社員、取締役、出口や私が見たものを統合して判断するようにしています。経験則上、皆の判断を併せると、間違うことはほとんどありません。また、外資系などでは一般的ですが、過去に一緒に仕事をした方をご紹介いただいて話を伺ったり、少し疑似的に仕事をしてもらったりするのも有効な手段ですね。

徹底して厳選採用をされているのですね。ベンチャー企業は最初の1名が優秀だということはよくあるのですが、複数名揃うケースは少なく、さらにそれ以下の人材も優秀である組織を作るのはとても難しいのが実態です。しかしベンチャー企業の場合、立ち上げメンバーがどういう人材かでその後入社してくる人材のレベルも決まるので、ベンチャー企業こそ徹底して厳選することが必要だというのはよくわかります。

実は当社の強さは出口や私ではなく部長陣の層の厚さにあります。以前当社で、海外在住の大学院生をインターン生として受け入れたことがあったのですが、彼は、入社前は出口や私が会社を引っ張っていると思っていたが、実際の社内では二人の影が薄く、会社の印象ががらりと変わったと話していました。出口も私も彼からそのように言われて本当にうれしかったです。それこそが組織の強さですよね。このような組織だからこそ出口も私も外出していても安心して任せていられるのです。ベンチャー企業として急成長している企業は一見するとトップの強いリーダーシップが目立ちますが、実際にはトップを支える層に優秀な人材が多いものです。そのような企業には、優秀な人材が集まってくる仕掛けや、経営者に人間的な魅力があるのだと思います。

とても興味深いお話です。現場のことは部長陣に任せられているとのことですが、岩瀬さんはご自身の役割をどのようにお考えですか?先日、出口社長に同じ質問をさせていただいたところ、「社員が皆会社に来たいと思う会社づくり」であるとお話しされていました。

私自身は、チアリーダーのような存在でありたいと考えています。リーダーシップには先頭に立ってメンバーを導くスタイルもありますし、後ろから支えるリーダーシップもあります。たとえば南アフリカ共和国の黒人大統領ネルソン・マンデラは羊飼いのようなリーダーシップだったと評されていたのを聞いたことがあります。つまり、ヒツジは自分たちが導かれていることには気づかないけれども、そこに彼がいるから前に進むことができるということです。リーダーシップの発揮の仕方は様々ですが、結局のところそれぞれに合うスタイルでやればいいのです。私は保険やIT、マーケティングについて他の社員よりも詳しいわけではありませんし、年齢も経験も私より上の社員が多いので、実務上何かの指示をすることはほとんどありません。ですから方向性を伝えて、社員が困っている時に助けるのが私の役割だと思っています。社員はリソースありきで考えてしまう場合が多いので、「人が足りなくてこれができていない」ということがあれば「ここから人を異動しよう」だとか、「これをやりたいけれどお金が足りない」ということがあれば「ではお金を出そう」といったようにボトルネックになっていることを取り除くようにしています。

これまでにお話を伺ってきた岩瀬さんのイメージとは少し違いますね(笑)

社内では全然違いますね。ちなみに出口はもう一つ担当していることがあります。それは「やらないことを決める」ことです。社員は皆いろいろなことをやりたがるので、やらないことを決めることこそが実は非常に難しいのです。例えば、ネット以外の方法で申込みを受け付けない、と決めたこともその一つです。設立して間もないころは契約獲得に苦労していたので、お客様からの「紙で申込みたい」「電話で申し込みたい」といったご要望に心が動きそうにもなりました。しかし、出口は「それだけは契約がどれだけ欲しくても絶対にやってはいけない」と言い切りました。ビジネスモデルから外れたイレギュラーな対応を増やすと、結果的に高コストになり、お客様のためにならないからやってはいけないというロジックなのです。今ではその判断は正しかったと思います。


今のように出口さんと意見に相違が出ることはあるのでしょうか。

もちろん5年間付き合っているので、意見が異なることは何度もあります。ただし、出口は職制上上司ではありますが、一度も彼から指示されたことはありませんし、重要なことは全て相談して決めると出口自身がルールとして決めてくれているので、やり取りに遠慮を感じたことはありません。そのため我々の間柄を知らない人が聞いたら驚くくらい思ったことは言います。ただし、最終的には出口の判断をとても信頼しています。意見が違う理由はいくつかパターンがあるのです。1つは前提となる情報が全て共有できていない場合です。経営判断は短期・長期や社内・外など色々とバランスをとらなければならないことがありますから、視点の多さが必要です。私は自分が納得するまで出口に意見を言いますが、結局のところ価値観や判断の拠り所となる基準は出口と同じですから、なぜ意見が違うかを整理して情報や視点を共有すれば大体納得はできるのです。

お若いながらも今後日本を代表するであろう岩瀬さんにとって、これから身につけるべき能力とは、どのようなものであるとお考えですか?

一つは判断力です。経営判断には正解がありませんから、問題解決力ではなく、判断力が必要です。正解がない問題に対してベストな答えを出すことは出口を始めとする経験者の判断を参考にしながら学んでいる最中です。また組織の動かし方も今後学んでいきたいことの一つです。前職までは数か月単位の少人数制プロジェクト形式でしか働いたことがなかったので、段階的な役職がある組織がどのようなものかを体験したことがないのです。そのためどのように人を動かせばいいのかも周りを見ながら勉強している状態です。