経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.019 フリービット株式会社(酒井穣 氏)

フリービット株式会社(酒井穣 氏)

樋口:
成功体験に少し通ずるものがあると思いますが、私は人材を育成するには意図的に機会を与えるということが重要だと考えています。

酒井
機会というと「ジョブ・ローテーション」のことだと捉えられることが多いですが、私はそうではないと考えています。むしろジョブ・ローテーションには専門性を欠いてしまうという問題点があります。
私はビジネスパーソンとして成功するために絶対に知らなくてはならない業務は2つだと考えています。それは、「セールス・マーケティング」と「プロジェクトマネジメント」です。この2つの業務をバランスよく理解していないと、ビジネスパーソンとしては不完全でしょう。 まず、セールス・マーケティングというのは会社存続のために受注をとることが仕事なので、社内の事情よりも顧客の要望を優先させます。一方プロジェクトマネジメントは、納期・品質・コストの観点からプロジェクトをコントロールするのが仕事です。現実には顧客の要望通りではプロジェクトを実現できないこともしばしばあり、この点でセールス・マーケティングとプロジェクトマネジメントの間には構造的に衝突が起こるようになっています。しかしこの2つの衝突の中に「均衡点」を見つけて動くのがビジネスというものです。そのことを経験として理解していることはビジネスパーソンとして重要なのです。

不足があれば自分自身で身に付けなくてはいけないということですね。

先ほど樋口さんは「気が付いたらそこにいた」とおっしゃいましたが、それは多くの経営者にとって真実である一方、人材育成の観点から考えると非常にリスキーなことです。私は、きちんとステップを設け、それを経験させる機会を設ければ、ある程度経営を担える人材を増やすことができるのではないかと考えています。GEがその良い例でしょう。ジャック・ウェルチに代わる経営者の育成は彼の引退の10年前からプログラムが開始されていました。

そのようなプログラムは非常に時間もお金もかかりますから、大規模な育成計画が必要ですね。

そうですね。とはいえ、国や会社に頼るのではなく、自分自身でキャリアデザインをすることが重要だと思います。もし仮に「経営者になりたい」という希望があるのならば、それに向けて自分の経験を自分でデザインしなくてはなりません。経営者への階段は、「ただがむしゃらに、一生懸命にやっていれば登れる」というものではありませんし、会社がGEのようなリソースを与えてくれることなど期待できませんから、自分で経験のデザインをやるしかないのです。

お話は変わってしまうのですが、1点お伺いしたいことがあります。それは酒井さんが著書の中で説かれている報・連・相の重要性の根拠についてです。私自身サラリーマン時代に、人事部から事業部に派遣され、直属の上司の顔が見えない中で仕事をする期間がありました。その中で自分なりに報告を小まめにおこなうことを徹底した結果、気付いたら上司からの評価が高くなったということがありました。このような経験があるため、報・連・相の重要性は身をもって体感しています。しかし言葉で表現するとなるとうまく表せないものですから。

まず、報・連・相が必要な理由は一言で言ってしまえば、「それが組織だから」です。悪いことほど迅速な対応が求められるものなので、経営者は悪い情報ほど早く上げてくることを求めています。しかし、人は悪い報告ほどしたがらないものです。そのため報・連・相をキーワードに良くても悪くてもとにかく情報を出させるようにし、結果的に悪い情報を吸い上げるようにしているのです。つまり、報・連・相が重要だと言うのはまずは経営側の理屈だと言えるでしょう。
しかし、報告をおこなうことは、それを行う側にも大きなメリットがあります。
まず、報告をおこなう側のメリットは、報告をおこないながら、自分の考えを整理できるという点にあります。人間の思考というのは、アウトプットによってさらに深まるものなのです。たとえばコンピューターの場合は、「このような音を出す」と前もって決めてからスピーカーを通じて音を出します。しかし人間の場合は、時には話したものを後から聞いて「自分はこんなことを考えていたのか」と気付くこともあります。これは、もともと頭の中に準備されていることを話したのではなく、話すことによって考えた結果なのです。樋口さんが報告を書いている際にもこの原理が働き、おそらく体験したことをそのまま書いているのではなく、書くという行為を通じて、考えを整理し、次のアクションまで考えを深めていたのでしょう。
一方、報告を受ける側の副次的なメリットは、さらに上の人に報告する際の良いツールになるということです。おそらく樋口さんの上司は、さらにその上司に報告を求められていたはずです。大企業ではもともと必要とされてるレベルよりもやや詳細なレベルで問題を把握している方が印象が深まり、評価につながる場合が多いようです。詳細レベルで現場を把握するという点において、樋口さんの報告は上司にとって自らのパフォーマンスをアピールするためのツールだったのでしょう。

最後に酒井さんの今後のミッションについてお聞かせください。

私のミッションは、「インターネットをひろげ、社会に貢献する」という理念を達成するために、フリービットを「日本で最も人材を育成する会社」にすることです。
より社会的な意味でのミッションは、著書や講演を通して日本の競争力向上に貢献することだと考えています。
ちなみに私の著書は論調は柔らかくしていますが、本の存在自体は世間に喧嘩を売っている物ばかりです。『はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、IT化によって社会構造の中抜きが生じ、中間管理職は必要ないと言われることに対して異論を唱えるものです。また、『あたらしい戦略の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)というのは日本人が「戦略」という言葉をきちんと定義せずに、妙に哲学的なものとして使ってしまっている現状に疑問を提起したものです。また『英会話ヒトリゴト学習法』(PHP)は、「簡単に英会話ができるようになる!」といった本が乱発されることへの反発と、大変ですが確実に英会話力を伸ばせる方法を提示するものでした。そして『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(光文社)は人材育成の重要性が叫ばれる中で、本当に、本気で人材育成に注力している企業がどれくらいあるのか、という問いかけの意図があります。
これからも日本の社会に対する問いかけを行うような本を書いていく予定です。

人事に限らず色々なお話を伺うことができ、とても興味深かったです。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

 

酒井穣のパーソナル・ブログ
http://nedwlt.exblog.jp/

著書紹介一覧はこちら
「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト
はじめての課長の教科書
あたらしい戦略の教科書
英会話ヒトリゴト学習法

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フリービット株式会社

■会社名:フリービット株式会社
■代表者:代表取締役社長 CEO 石田 宏樹
■設 立:2000年5月1日
■所在地:東京都渋谷区円山町3-6 E・スペースタワー6F・11F・13F
■URL:http://www.freebit.com/
■事業内容 :
 1.インターネット接続事業者へのインフラ等提供事業
 2.ユビキタスネットワーク提供事業
 3.インターネットビジネスに関するコンサルティング事業