経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.047 ワタミ株式会社(岡田武氏・平岸敬吾氏)

経営と現場社員の目指すベクトルが合っているかが会社の強さ ワタミ株式会社(岡田武氏・平岸敬吾氏)

夢を持てる人は成長する

樋口:
これからは入社後の人材開発についてお話を伺いたいです。御社にはいろんな事業があるので一般化するのは難しいかもしれませんが、御社の中でリーダーやマネージャーとして早く成長する人の共通点は何かありますか。管理職として価値観を現場に共有しつつ、まとめあげていくのは非常に高度な技だと思います。

岡田:
一つは「素直な人」です。例えば外食事業では、新卒で入社して1年ぐらいで店長になる人もいます。店長は30人から40人をまとめ上げながらチームをつくっていかなければなりません。そのため、「相手の話をきちんと聞くとか、自分だけでなくて相手のことを考える」といった素直な心がないと、周りは「この人だったら協力してあげよう」「教えてあげよう」となりません。当社の仕事はお客さまにも、一緒に働く周りのスタッフにも常に対面しています。介護も、宅食もまさに同じです。特に後者の2つの事業は、接する方々の年齢が非常に高いですし、働いているスタッフも、多種多様な方々が多いですから、やはり心が素直な人は成長しやすいと思います。

樋口:
いろいろな人に好かれ、かわいがられるということですか。

岡田:
そうですね。まず素直な心は必要ではないかと思います。その一方で、我が強い人でも成功するケースもあります。例えばそういう人は配属直後に自分のやり方を主張するため、スタッフとなじめず孤立するケースがあります。そこから自分自身と向き合って、自身の足りない部分に気づき、成長していくという人材が店舗では見受けられます。

樋口:
挫折から立ち上がれない人と立ち上がれる人というのは何が違うのでしょう。やはり素直さですか。

岡田:
それとあきらめない心だと思います。自分を信じているということであったり、「お店はお客さまのためだけ」にありますので、目の前のお客さまに喜んでいただけることがうれしい。自分はこれが好きということが大切だと思います。

平岸:
今、岡田が話したことを前提として、私は、自分の中で動機を作れることが大切だと思っています。お店や介護ホームでの仕事は一見、毎日変わらない同じ建物の中でのことです。自分で動機形成できない方は、その中で「もうやりきったな」とか、「もうこれで完璧だ」と思ってしまいがちです。しかし、そう考えた瞬間にその人の成長が止まってしまうものです。しかし、もし毎日接するのが同じお客様だとしても毎日毎日違う気持ちで来店される方もいますし、ご入居者様においては毎日毎日新しい朝を迎えています。自分の中で動機が作れる人は、昨日よりももっと良い一日を過ごしてもらいたい、昨日よりももっと良い食の空間を作りたい、と考えられます。この気持ちがとても大切だと私は思います。これはワタミの採用基準の一つである「夢や目標を持てる人」、ここに大きくつながっていると私は考えています。自分の目標や、何か目指すところを常に作っていける人、もっと先、もっと良くと、中長期的に見て止まらずに進んでいける人は成長すると思うのです。

樋口:
日々の仕事の中でモチベーションを保つ目標を見つるのは、とても大切なことですよね。

岡田:
ワタミはちょっとお節介な会社なので、社員はみんな5年後の夢や、来年の夢を書きこむ手帳を持っています。また、毎月1回は必ず上司とカウンセリングの場面を設けており、そこで仕事や家庭、教養など人生における6つの柱を基本に「今どうなの?」ということを話しています。研修もそうですが、このカウンセリングでも自分が何を目標としているのか、を思い出す機会、環境を作っています。

樋口:
毎月だいたいどれくらいの時間で、どんなお話をされるのでしょうか。

岡田:
毎月30分前後でしょうか。夢もそうですが、目先の目標についても話しています。例えばお店だったら「副店長」になるために来月はこんなことをやっていこうねというような話ですね。

平岸:
私は岡田にカウンセリングをしてもらう立場ですが、毎月30分から1時間ぐらい行っています。カウンセリングの中ではプライベートな話をすることもありますが、仕事を通じて何か明確に見えたときは、「こういうことを今目指しています」と話しています。部下として一番うれしいのは、月に1回でもゆっくりと自分の話したいことを話せる、そして知ってもらえた、ということです。これだけでも、部下の立場からすると結構安心感があります。プライベートなことも知ってもらえて、話せるとすっきりします。

樋口:
社長もそういったことはされているのでしょうか。

岡田:
社長の桑原は、毎月20人位、カウンセリングをしています。

樋口:
社長の役割になっていても、実態としては形骸化している会社も多くあると思いますが、そこをきちんとされているのはすごいことですよね。最初に伺った3カ月に1回の理念研修も面白いなと思いましたけれども、御社はコミュニケーションについては、かなり真剣にされているのですね。

岡田:
はい、かなりお節介だと思います。当社では、4月に理念テストというものも行っています。これは言葉の一字一句を暗記することが目的ではなく、経営理念と向き合おうという試みです。4月から新年度になるので、過去1年間、理念に沿った行動や考え方ができていたかを振り返り、新年度の目標設定をしようという目的なのですが、これは経営陣もやります。

樋口:
徹底していますね。御社の規模の会社で理念の共有をそこまでやっている事例を初めて聞いたので驚きました。