経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.047 ワタミ株式会社(岡田武氏・平岸敬吾氏)

経営と現場社員の目指すベクトルが合っているかが会社の強さ ワタミ株式会社(岡田武氏・平岸敬吾氏)

誰にとっても良い会社ではない

樋口:
採用時点の理念の摺合せはどのようにされているのでしょうか。

平岸:
例えば新卒では、面談は基本的に1対1で行い、応募者には極論ですが「こちらが合否を出す面談ではないですよ。お互いにもっともっと深く知り合って、皆さんにとってワタミに入社することがいいのかを本当に確認してください」と伝えています。他には課題として原稿用紙10枚の作文も導入していますし、ワタミグループに関する著書を課題図書として読んでもらいます。そこまで本気でなければその課題が出された時点で引いてしまうでしょうし、逆にそれを全部読んでさらに会社の理解が深まったと言ってくれる人もいます。

樋口:
それは選考のプロセスですか。確かに志望度によって対応が分かれそうですね。価値観のマッチングには回数が必要だとよく耳にしますが、本数冊は初耳で驚きました。

平岸:
当社ではこのやり方を十数年継続していますが、このやり方に間違いはないと思っています。

岡田:
その他にも内定後は“ぶっちゃけミーティング”と称する面談を行なっています。お互い本音で話をしてもらい、距離感を縮めていくような取り組みです。

樋口:
伺っていると、本当にお互い素になってそこで合う人材だけを、一緒に働く仲間として迎え入れている感じですよね。もし能力が高い人材がいても、価値観が合わなかったら採ろうとしないのですか。

岡田:
まず、採用することはないですね。

樋口:
やはり自社に合うかどうかを最優先にしているのですね。お二人ご自身も現場で働かれて、定期的に創業の話に戻るとか、理念の話に戻ることの大切さを実感されたことはありますか。

岡田:
私は、前職の会社が倒産してしまったことをきっかけにワタミに入りました。就職先を探している期間、ちょうど就職氷河期の時代ということもあり多少の苦労があって、そのときにいろいろなことを考えたわけです。ワタミは経験と言うよりもその思い(理念)に共感して、やる気があれば受け入れてくれます。私は思いに共感して入社しているので、私にとって理念を重視することはとても自然なことなのです。

平岸:
私は新卒で当社に入社したのですが、理念に共感できたからこそ、入社から十数年経った今でも日々楽しく働くことができていると思います。楽しくない仕事、価値観の合わない会社で働くこと以上に無駄な時間の過ごし方はないなというのが私の実感です。
ですからそんな自分にとっての1社を学生の皆さんにはぜひ見つけてもらいたいと思っています。この採用という部署に来たのも、自身の就職活動を振り返って、この自身の経験を踏まえた実感を学生に伝えたいと思ったからです。私は最初に参加してもらう就職セミナーを担当しているのですが、最初に必ず伝えています。「この会社は誰にとっても良い会社ではないし、誰にとっても良い会社なんて世の中にはない。みんなもそれをしっかり考えて、自分に本当に合う会社を探してほしい。」と。別にワタミを押し売りする気なんてまったくありません、誰にとってもいいよ、なんて言うつもりもありません。ですからそこははっきりと伝えています。

樋口:
何か上から言われたとか、そんな話ではなく、きっとそういうDNAが創業のころから続いているのでしょうね。

岡田:
そうですね。ワタミにはそういう文化があると思います。

樋口:
学生さんだとピュアに価値観のマッチングができると思いますが、中途採用になると確率が悪くならないですか。価値観のマッチングというか、ある程度押し付けみたいな形になってしまったり、経験がある分やりづらいということはないでしょうか。

岡田:
それはおっしゃるとおりだと思います。中途採用の場合は、確かに新卒ほど時間をかけて接することはできません。しかし新卒と変わらず、選考過程での書籍は必ず読んでいただいてますし、課題作文も必須となっています。
また面接時には、必ず「理念や価値観の共有が出来ないと難しい」という話をしています。つまり、どんなに良いことを言っていても「本当に思い(理念)に共感しているか」を確認するようにしています。

樋口:
そこのすり合わせができていなければ、入社しても楽しくないし、楽しくないから仕事の成果もきっと差がつくのでしょうね。納得して生き生きして働くのと、ただのお皿洗いをやるのとでは仕事の成果というのはずいぶん違うでしょうね。

岡田:
もし採用人数に達してなくても、価値観が合わなければ(理念に共感できなければ)それは仕方がないときっぱり言えます。