経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.042 株式会社経営共創基盤(冨山和彦氏)

事業継承成功のカギはオーナーの了見 株式会社経営共創基盤(冨山和彦氏)

樋口:
私自身もそうですし、これまで関わった経営者の方々を見ても、創業経営者が企業を自分の会社、自分の人生と考えてしまうことはよくわかります。

冨山:
人生と会社が完全に一体化しており、その状態が心地よくて、一体化している状態で経営を続けたいのであれば、あまり上を目指さない方がよいでしょう。

企業を大きくするには心地よさを超えなければならないですよね。後継者育成は仕組みではできないのでしょうか。

中小企業のレベルを超えて中堅、大企業まで成長していくベンチャーモデルを目指すのであれば話は別ですが、中小・中堅のサイズで営々と経営していきたいのであれば、そこで後継者の議論をまじめにやるのはナンセンスです。もちろん組織の中でタイトルや役割が上がることは従業員にとって一つのエンカレッジメントにはなりますから、組織としてヒエラルキーを作ることも必要ですし、出世させることも必要です。ただし、それはあくまでも動機づけ、リワードとしてであり、実際には一人で経営したほうがいいです。自分の重荷を誰かに代替させられると思うのは間違いで、あり得ないと私は思います。基本的に経営者は野垂れ死ぬものなんです。真剣に経営しているという前提に立つと、ずっと大変ですよ。そんな優雅なものじゃありませんから。

そうなのですね。お話が変わってしまいますが、今の20代は会社におんぶにだっこではいけないということに気付いています。そこで20代は勉強期間として数社経験させ、30代になり、会社や自分というものを理解した段階であらためて会社を選ぶようになればよいと思います。みんなが20代にサラリーマンをしているのはもったいないことです。このような世の中になれば、今の中小企業の人材問題はもう少し解決するのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

大きな組織に入る効用は1つあります。それは、大きな組織は初期教育がしっかりされることです。基本的な所作や、頭の下げ方、文章の書き方などは、日本以外の国であれば大学時代に終えておくはずです。私は大学の本質的な存在意義は、世の中の95%にとっては職業訓練校であるべきだと思います。アカデミアとしての大学に残る人は東大でさえ2、3%しかいませんから。ところが、日本の大学はそういう役割を放棄してしまっているので、中途半端な教養のような教養でないようなものだけ勉強したような勉強していないような感じで社会人になってしまうわけです。企業は共同体ですから、共同生活をしていく上で最低限の作法があります。大企業はその作法を最初に教え込むわけですよ。そこだけが大企業のいいところで、その限界効用は2、3年で終わってしまいます。その教育期間が終わるとあとははっきり言って暗黒の20代ですね。30代はもっと暗黒です。突き詰めると、何をやっているのか分からない10年、15年が続くんですよ。
しかもサラリーマンをすることによって、むしろ悪い癖がつく場合のほうが多いです。たとえば有名企業や省庁の名刺があればで誰でも会ってくれますし、そこそこのレベルだと認識してもらえるので、世の中をなめてしまうことがあります。人と仲良くなったり、顧客を担当したりしていると、それが自分の実力なのか、所属している企業のブランドなのかという見極めがつかなくなってしまい、会社を辞めてみて初めて世間の冷たい風に気がつくというパターンです。企業に長くいればいるほど、どうしても勘違いするんですよね。ですから、私は大企業には2、3年もいればいいのではないかと思います。むしろ、その後に中小企業に移ってみて、世間の冷たい風に当たったほうが、バランスのとれたいい人間になるような気がしますね。

大企業の中にはすごくレベルの高い優秀な人もいます。私自身その人に鍛えられたから独立できたという思いがあります。しかし、中小企業ではサラリーマンのレベルの優秀な人材にいじめ抜かれる経験は、あまり得られないように思います。

ですから、最初の3年ぐらいは大企業にいたほうがいいのです。ただし、大企業に所属しても、そういった優秀な人材にめぐり合える場合とめぐり合えない場合がありますけどね。これは玉だ、という人材は大企業で1割もいません。出現率は数%です。しかも大企業でこれはという優秀な人材のいる比率は昔より下がっています。昔はそこそこの大学を出たら大企業に入るしか選択肢がなかったので、全員大企業に入ったんですよ。ということは、大企業にも相当優秀な人材が入り込む確率は高かったわけです。例えば金融だったら財務省、日銀を頂点として、上から順番に入っていました。ですから大企業には基礎能力が高い人材がいたのです。今ははっきり言ってそういう序列は崩れてしまったので、少なくとも自分の可能性に関して相当自信のある若い人が、おとなしく大手商社や大手銀行に入る確率はすごく低いですよ。そういった人材は外資や新興勢力の成果主義の会社を受け、そういったところに受からなかった人材が年功終身雇用の無事是名馬の組織に入るので、ある種器の小さい人材の逆選択が起きてしまうのです。