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5人のような1000人の会社を作りたい 株式会社ネクスト(板谷隆一氏)

掲載物件数No.1の不動産・住宅情報ポータルサイト『HOME'S』や地域情報サイト「Lococom(ロココム)」等を運営し、人々のより良い生活の実現を目指して、世の中の「不安」、「不満」、「不便」といった「不」を解消する事業を展開する株式会社ネクスト。同社取締役執行役員 経営戦略本部長 兼 新規事業本部長 板谷 隆一 氏、経営戦略本部 人事部長 羽田 幸広 氏に価値観を重視した組織の作り方についてお話を伺いました。


樋口:
ホームページを拝見して御社は若い方が原動力となっている会社だ、という印象を持ちました。実際にはどのような方が多いのでしょうか。

板谷:
当社には「利他主義」という社是があり、さらに『常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る』という経営理念があります。これらは当社の経営の軸であり、「利他主義」に共感し、経営理念を実現できる人材を採用しています。例えばベンチャーであれば、当然「こういうスキルを持っている人」「こういう経験を持っている人」といったような職務能力を重視するケースも多いと思います。もちろんそれも大切な要素ですが、当社の場合はまず利他主義を自然と体現できる、私達の経営理念に共感できるということが最重要項目なのです。また社是・経営理念に加え、行動規範となる8つの「心と行動のガイドライン」、6つの「組織のガイドライン」を設定し、社是や経営理念への共感に加え、ガイドラインを無理なく体現できる方を採用しています。
また、これらを全て記載した「ビジョンカード」は社員全員が常に携帯しています。

スキルだけではなく、価値観を基準に採用するとなると、なかなか合致する人材を見つけるのは難しいのではないでしょうか。

板谷:
そうですね。意欲やスキルが高い人は世の中にたくさんいますが、社是・経営理念・ガイドライン全てを理解し、共感してくれる方にはなかなか出会うことはできません。ただし、採用段階で徹底して価値観を確認していますから、入社してくる人材は「自分はこれをこの会社で実現したい」「自己実現すると同時に、この会社の経営理念を達成したい」と考えている人材ばかりです。そのような社員を登用して組織を作り、ビジョンカードの内容を末端の毛細血管までギュッと詰めていけるように心がけています。一般的な企業では年齢が上がれば役職も上がる、というケースが多いと思いますが、当社では年齢や過去の経験はそれほど関係ありません。想いがあり、ビジョンカードの内容を体現できる人材を、早めにマネジメントにピックアップしていくようにしているからです。

アメリカのGreat Place To Workに選出されるような企業もビジョンの浸透を重視しているそうです。しかし、その実現は非常に難しいように思います。一体どのようにして採用の段階で価値観の共有を図られているのでしょうか。

板谷:
おっしゃる通り、面接で価値観への共感度合いを探ることは非常に難しいです。
面接で3~4回会うとすると、1回1時間、4回で4時間です。その4時間のコミュニケーションの中で、一緒に現場で仕事をするメンバーは、応募者の発言が本心かを確認し、上長となる者は応募者が壁にぶつかったときに社是やガイドラインに沿って行動できそうかを確認するために、じっくり質問するようにしています。入社後は「360度フィードバック」という制度を取り入れています。先ほど申し上げた経営理念とガイドラインのすべての項目の実践度合いを、周りの人に評価してもらう取り組みです。例えば10名のチームであれば、「ガイドライン各項目が10名中何位だと周囲に思われているか」がチームメンバー間や、同部署のマネジメント層の間で出るようになっています。それによって、自分が周囲からどのように見られているのか、気付きを与え、意識するための制度です。

360度フィードバックのスコアの高低自体は給与に反映されるのでしょうか。

板谷:
そういった類の評価ではなく、価値観と行動の確認の場だと捉えています。


御社が入社前や入社後の価値観の共有にそれほどまでにこだわる理由はどこにあるのでしょうか。

板谷:
価値観というのは会社にとって人間の体で言うところの骨です。例えば業績がいい、給料が高い、東証一部に上場していて安定しているといった理由で入社してきたとしても、仮に業績が悪くなったとき、上場企業でなくなったときにその会社に残るかどうかは会社の経営理念への共感度によると思うのです。ですから絶対に譲れないポイントとして、こだわり続けているのです。

価値観の共有を重視する文化は創業時からあったのでしょうか。

羽田:
このビジョンカード自体を作ったのは2004年のことです。それまでは社員の認識の中にはあったものの、言葉としてまとめられてはいませんでした。それを当時の社員約50名全員で合宿をおこない話し合いを経て3カ月ほどかけて作成しました。実は、社是や経営理念、ガイドラインの共有に対するこだわりが増したのは、それらの共有不足により社内に混乱が起こったことがきっかけでした。その経験を経て、代表の井上(代表取締役社長 井上 高志 氏)がきちんと言語化し、それに合う人材を採用しようと決めたのです。

価値観の共有を最重要視する、ということは逆に言うと、例えば社員を増やせば売り上げが上がる、という状況でも価値観にコミットできない社員は採用しないということなのですね。

板谷:
その通りです。実際に、あるポジションに対して現場から「人が足りないから採用してほしい」と言われても、社是・経営理念・ガイドライン全てに共感する人材を採用するのに時間がかかり、すぐに迎え入れられないということもあります。そのため、中途採用よりも新卒採用の方が増えてきています。

それら全てに合致する人材となると、過去の経験が少なく、何にも染まっていない人の方がよいでしょうね。

板谷:
他社でいろいろな経験や価値観に影響を受けている人は、時に判断に迷ってしまうことがありますからね。一方で色々な価値観に触れたからこそピュアなところに立ち戻って働きたいという人も少なくありません。私自身も後者の例です。以前の会社も非常に素晴らしい会社でした。しかし、売り上げも大切にした上で「自分の思っていること」、「信じていること」と合致しており、自分が存在する意味の見出せる会社に勤めたい、と感じていたときに当社に出会いました。そういう意味では、色々な経験や価値観に触れ、垢が付いている人材でも、それをおとしてピュアな状態になれる会社だと思います。