経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.040 アポプラスステーション株式会社(成岡英律氏)

個々が意志を持ったスタッフ集団でありたい アポプラスステーション株式会社(成岡英律氏)

樋口:
他業界出身者の中でも上手くいく人と、伸び悩む人が出てくると思います。その差は何だとお考えですか。

成岡:
一つは自分で考えてきたかどうかです。顕在化されたニーズだけではなく、潜在的に顧客が何を望んでいるか、自分が顧客の立場だったら何をされたら嬉しいか、など常に顧客視点に立って考えられる人は年齢や性別関係なく伸びています。また、成果に対するコミットメント性によっても差が出ます。MRの仕事は成果が出るまでに足が長いという特徴があります。
そのため、人が入れ替わったからと言ってすぐに営業数字に影響は出ず、3~6カ月後にじわじわと差が出てくるのです。ですから、ある程度の成果が出ているからといって満足せず、「これをするためにはどうすればいいだろう」と自分で考えながら行動している人や、決めたプランに対してPDCAサイクルを回し、実直に取り組んでいる人が結果的に成果を出しています。更に、取り扱う薬剤は日進月歩で進化していくものですから、継続した自己啓発も欠かせません。医療業界は教育研修が充実しており、薬剤の勉強からセースルスキルまで体系的に学べるシステムがあります。しかし研修を受講すること自体が仕事になっている受け身な人はどんなに良い教育システムがあっても身に付く量が限られてしまいます。自分の実務と照らし合わせながら能動的に受けている人と比べると、後者の方が、格段に吸収量が多いですね。

今お話しされた能力要件とは、どの仕事分野の優秀な人にも共通するバロメーターですよね。ベースには自分を伸ばしたいという強い想いがあるのだと思います。そこから顧客に柔軟に対応するという姿勢が生まれ、そのためには勉強をしなくてはならない、という良い循環が生まれるのでしょう。

MRの難しいところは顧客の方が自分より専門領域に詳しいという点です。一般的な営業職は自分がその領域に対する玄人で、素人の顧客に対して難しいことを分かりやすく説明するのが仕事ですよね。しかし、MRの場合はある薬剤に関しては詳しいですが、領域全体や処方方法、副作用などの概念的領域に関しては医師の方が詳しいですし、情報量も多く持っているのです。そのような状況下でいかに説明し、いかに処方までこぎつけるかがMRの難しさであり、面白さなのです。

他業種からMRに転職した場合初めに躓くのはその部分でしょうね。顧客との関係性が大きく変わるのですから、向上心を持ち、顧客志向で考えられなければ難しいのだと思います。これまでどのような人材が成果を出すか、について伺ってきましたが、そのような人材の採用や入社後のフォロー体制について教えていただけますか。

当社は人事理念として「プロフェッショナル」を掲げています。私たちが考えるプロフェッショナルな人材とはテクニカルスキルだけを身につけている人材ではなく、コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルも持ち合わせている人材、つまり自らが「仕事のプロである」という自覚と情熱を持ち、コミットメント(やり遂げる)志向の強い人のことです。ですから、採用の段階でも過去の実績ではなく、当社に入社した時にいかにチャレンジできる人材か、自分の価値を高めるために努力できる人材かを見るようにしています。私は個人の能力の結集が企業力であると考えています。もし動機が自分の市場価値を高めることだったとしても、自分なりの問題意識を持って取り組んだり、自己啓発に励めば成果につながります。その結果、評価が上がり、給与も上がり、役職が上がることにもつながるでしょう。これは個人にとっても企業にとっても良いことですよね。各々が自身の市場価値を高めるために、自分なりの問題意識を持って成果を出したり、自分のスキルを身に付ける為に日々努力する。その様な、会社に従う構成員としての「従業員」の集団ではなく、個々が意志を持ったスタッフ集団でありたいと思っています。ですから社員には「社員同士で健全にプレッシャーを掛け合うことや前向きな議論の中で生じる対立は大歓迎だ」と最近は特に強調して伝えるようにしています。

なるほど。そのお考えは組織に既に浸透しているのでしょうか。

これから強化していきたいと考えています。当社の社員は皆まじめで自分の役割に対しては高く貢献してくれています。その一方で知的に欲張るという行動はまだ見えにくいのが実情です。本質的な資質としては持ち合わせた人材を採用しているので、それを引き出すための風土の改革をしていきたいと考えています。

難しい問題ですね。具体的にはどのように文化を変えていこうとお考えなのでしょうか。

まず2009年4月に人事理念を立ち上げました。その時に、当社の大戦略は「プロフェッショナル集団を実現させること」であり、給与、評価、等級は戦術であるという位置づけを明確にしたので、今はそれに対して取り組んでいるところです。新しい施策のうちの一つがバリュー評価です。人事理念から直結した5項目の評価を取り入れました。また、給与に関しても年俸のうちの20%を業績連動型にしました。更に、ここ2年で決裁権限を徐々に委譲するという試みもしています。