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キューアンドエー株式会社(金川裕一 氏)

樋口:
そのような仕事の仕方を理不尽だと思ったことはなかったのでしょうか。

金川
当然、理不尽だと思っていました。しかし、当時労働組合は設立50周年を迎え、歴史と伝統を有していました。そうした歴史と伝統の中で育まれてきた伝統的な進め方を配属後すぐに「こういうやり方でこういう風にやるように」と叩き込まれます。そうすると、それに疑問を持つのではなく、まずはそれを全うしなければならない気持ちになるのです。
伝統ある組織というのは、往々にして「決まり事」があります。大学時代のバレーボール部も80年近い伝統のある部活でしたが、「角帽をかぶらなくてはいけない」「靴とベルトは黒でなくてはならない」と全部決まっていました。しかし、ある程度理不尽であるのはやむを得ず、むしろ若い時にそのような経験をした方が良いのではないかとさえ思っています。

若い時とおっしゃいますと、どのくらいの年齢を想定されていますか?

35歳くらいまででしょう。と言いますのは、その年齢までであれば体力的にも耐えられますし、精神的にも周りと団結すれば耐えられるはずですから。

当社では「理不尽な経験」の有無を採用基準の一つにしています。今の時代は多くの人が折れてしまうので、下手にそういう場を与えると壊してしまいます。社会人になると誰しも一度は落ちることは想定の範囲内なので、それが乗り越えられそうな強さを選考で見極めたいと思っています。

私自身もこれまでに何度も気持ちが折れて、肉体的にもボロボロになってきました。でも性格的なものだと思いますが、「辞めたくない」「負けたくない」という気持ちがどこかにあるのです。
今でも鮮明な記憶として残っていますが、高校時代のバレー部も、ものすごく練習がきつくて、ほぼ毎日練習がありました。入部時には、たったの1カ月間で10キロもやせたほどでした。部活が終わった後は歩いて帰るのもきつくて、本当に這って帰っていました。あまりに苦しかったので、胸に退部届を忍ばせていたのですが、結局それを提出することはありませんでした。踏み切れなかった弱さもあると思いますが、結局3年間やり続けました。入部した12名のうち、3年まで残ったのはわずか2名しかいない程でしたので、その大変さがご理解いただけると思います。当時のことを振り返ってみますと、「負けず嫌い」だったり、「1つのことをやり出したら辞めるのが嫌だ」「物事を途中で投げ出す人間だと思われたくない」という性質が根底にあったのでしょう。
辞めた部員は「もっと勉強がしたい」「バレーだけでなく、いろいろな経験をしたい」とさまざまな理由を口にしていましたが、結局辞めた部員は推薦で大学に行くことはできませんでした(※注:金川さんは大学付属高校出身)。結局、きつい場所から逃避しただけだったのです。

やはり、理不尽な中でも続けるという「継続性」は一つのキーワードなのですね。その「継続性」というのは御社には浸透しているのでしょうか。

そうですね。しかし傍から見ていると、「もう少し我慢すれば伸びる」という時に他の道を選択してしまう社員もいて非常に残念なことがあります。

私も人事の立場からは全く同感です。私自身転職をしたことがないので、実際のところ目の前から横にずれるという感覚がわかりません。壁にぶつかったときに「自分のせいだ」と思うと「何とかしてやろう」と思うものですが、転職は人や環境のせいにした結果の方が多いのではないかと思います。結局のところ、問題を自責で考えて乗り越えるまで踏ん張れるかどうかがその後の成長の境目になるような気がしてなりません。

また「好きになれるかどうか」も大切な要素だと思います。先ほどの部活の話のように、昔はスポーツでも「やらされている」ことで何とか継続しているというイメージもありましたが、今は「好き」という気持ちから能動的にチャレンジしている人が多いように感じます。プロサッカー選手の駆け出しの平均年収は500万円程度だそうです。あまり高い年収だとは言えませんが、それでも続けられるのは給与よりも「好き」という気持ちが勝るためなのでしょう。ですので、このことは仕事をしていく上で非常に大切なことだと思います。そのためには、企業として「好き」になってもらうための場を演出していくことも必要でしょう。

同感です。「理不尽な経験」も必要ですが、これは会社サイドのわがままな要求なのかもしれませんね。昔は社会全体に理不尽さがあふれていましたし、それに従っていてもいずれは上のポジションにつくことができましたので、部活でも会社でも我慢することができました。
今の若者たちはさほど会社も社会も信用できない環境に育っています。そのような人材に理不尽さを強要するのは少し酷なのかもしれません。そういう意味では、金川さんのおっしゃるように「楽しい」「成長を感じる」場を用意してあげるのが経営側の務めでしょうね。