経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.050 特定非営利活動法人Teach For Japan(松田悠介氏)

心がけているのは、組織の1人1人が学び続ける組織作り 特定非営利活動法人Teach For Japan(松田悠介氏)

「育てる」ではなく「ともに学ぶ」

樋口:
今のお話を伺って、団体自体が新たなステージに入っているように感じました。
私は人が成長する一番のステップは、採用して、自分で育てて、使うことだと思っています。Teach For Japanさんも組織としてこのようなステップを超えることが必要になってきたのではないでしょうか。

松田:
私自身は、実はあまり育てるという意識はなく、自分自身も組織の一人一人も学び続ける組織づくりの方を重視しています。「育てる」という感覚が薄い背景には、自分自身がまだ経験を積んでおらず、学ばなければならないことがたくさんあるという意識が強いからだと思います。そのような状態では人を育てるのは意味をなさないのではないかと思いますし、私よりも優秀な人材がおりますから。ですから学ぶ意欲は当団体に入るときは重要です。できないことが前提である一方、誰かが教えてくれるものではありません。その中での私の役割はいかにして自分自身が学び成長するか、という空気感を作ることだと思っています。時には壁打ち相手になったり、考え、話し相手になったりと一緒に学ぶ、ラーニング・パートナーになることはもちろんありますが、まだ育てるというステージではないと思っています。

なるほど。想像を絶する責任の中で、松田さんご自身も学びにアクセルがかかるのではないでしょうか。

今まで誰もやらなかったことをやろうとしているので、取り組んでいることそのものが日々学びですね。教育委員会や文科省とどうやり取りをするのか、教員をどう育成し、どう育てるのか。すべて答えがないものなので、取り組むことそのものからの学びは大きいです。前例がなく、計算してもしきれないことに踏み込もうとしているというのが今の状態です。そこにアントレプレナーとは違った学びがあるのではないでしょうか。

最後に、今後どのような戦略でプログラムを進めるかについて教えていただけますか。

われわれが取り組んでいる教育と格差という問題は、深刻さが伝わりづらい分野です。議論はされるけれども、日々の生活で身を以て格差の深刻さを実感することはあまりないという人が多いのです。ですから、その支援を募る前にまずこの問題の深刻さを理解していただく必要があります。日本の教育格差、相対的貧困率は世界で見ると4番目に高く、非常に深刻な問題だと感じています。自分自身は、幼少の頃に貧しさを感じることはありませんでしたが、それはたまたま松田家に生まれたからであって、別の家庭に生まれたら違った運命が待っていたかもしれません。それが、運命ではいけないと思うんですよね。今、生活保護が話題ですが、その子どもたちが大きくなっていくと、やはり学力格差が開ききっていて就労できず、また生活保護になっていくという状態になりかねない。この状態を世の中の人達にまず知っていただきたい。こうした格差の連鎖は予防するものであって、小学校、中学校の時にその子どもと向き合っていく大人がいればまったくもって違った状況になると思うのです。そこに共感をしていただける方々は、是非ともお力添えをいただきたいなと思っています。
教育課題は、一人二人の教師では到底解決できる問題ではないのです。だからこそ、私たちは学校現場と教育委員会、文科省と共に、時には政治も巻き込んでいかなければなりませんし、資金や人・物など様々な面でご協力をいただければと思っています。
NPOというのは、まだ解決されていない社会課題に取り組むのが使命だと思うのです。現在の制度や仕組みの中で、支援を必要としている人は、教育の分野に限らず様々なところにいます。だからこそ、市民セクターであるNPOが、多岐に亘る課題に取組んでいく必要があります。もちろん、民間や国の支えなくしては、NPOが課題を解決することは非常に難しいでしょう。その意味でも、多くの方々から支えられ、同時に問題を解決できることを発信していただけるのはとてもありがたいです。

松田さんの熱い思いが伝わりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

 

 

 

CompanyData

特定非営利活動法人Teach For Japan

■会社名:特定非営利活動法人Teach For Japan
■代表者:代表理事 松田 悠介
■所在地:東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館 B1F
■URLhttp://teachforjapan.org/
■事業内容
 ・Next Teacher Program(ネクスト・ティーチャー・プログラム)を通じた児童・生徒の学力向上と、日本の教育課題の解決に取組む若手人材の輩出
■ビジョン
 ・ 私たちは、すべての子どもたちが地域、学校、家庭などの環境や経済的事情に左右されることなく、複雑で変化の激しい時代を生きるために必要な教育を受けられる社会、一人ひとりの可能性が最大限活かされる社会の実現を目指します。