経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.050 特定非営利活動法人Teach For Japan(松田悠介氏)

心がけているのは、組織の1人1人が学び続ける組織作り 特定非営利活動法人Teach For Japan(松田悠介氏)

2010年米国就職先人気ランキング(文系学生)で1位を獲得したTeach For Americaのモデルを参考に、教育と貧困格差の問題解決のために、2012年1月に立ち上がった特定非営利活動法人Teach For Japan。日本に前例のないモデルの導入に奔走する代表理事 松田 悠介 氏に、企業とNPOで異なる点や、組織づくりに対するお考えについて伺いました。

失敗を2度繰り返さないために学ぶ組織であることが重要

樋口:
今この東京の事務所に常勤の方は何名いらっしゃるのですか。

松田:
今は6名なんですが、来年は 19名に、再来年には39名になる予定です。来年4月から本格的にスタートを切る予定ですので、それに向けて準備を進めているところです。

それだけの人と一緒に働くとなると、収益の見通しなど計画を立てておかなければなりませんよね。

そうですね。われわれの場合は、収入は寄附が主な収入源となります。ですから、寄付文化をどう根付かせるか、開拓するかが課題で常に考えています。

収益構造以外の部分では、NPOと株式会社の経営はどのような点が異なるのでしょうか。やりがいや苦労は違うのでしょうか。

志を持って経営する点、常にイノベーションを生み出していかなければならない点、商品・サービスを世の中に生み出すことで社会課題を解決していく点はよく似ています。一方、大きな違いは株主の有無です。株主は、出資した額に応じて、経営者に対して意見ができますし、企業もそれに応えなくてはなりません。株主ひとりひとりの意見に応えるとなると、時には元々あった志が揺らぐこともあると思うのです。しかし、NPOへの寄附は、元々存在するビジョン・ミッションに共感をした場合に人・物・金という様々な形でおこなわれます。ですから支援を受ける団体の志がぶれることはありません。どんなに仕事がハードでも、それはすべて当然のことながらわれわれTeach For Japanのビジョンを実現するためであり、自分のパーソナルミッションを達成することに直結していますから。だからこそ、自分も楽しめているんだろうと感じています。

理念は企業にとっても大切なものですから、基本的な構造は同じなのですね。ところで企業の場合、経営者と社員は理念や人間としての信頼ももちろん一定の比率でありますが、人事管理上の評価や育成関係も関係性に大きな影響をもたらしていると思っています。その点NPOはいかがですか。

個人の成長という観点ではTeach For All のコアバリューの一つであるConstant learningの考え方を大切にしています。われわれは学習する組織でなければいけないと思っていますがこれには2つの理由があります。
まず第1に、失敗を2度と繰り返さないためです。大きなビジョンを実現しようとしているベンチャーの組織では、使命や課題が大きい一方、時間も限られており、全速力でやっていかなければいけません。ですから、一つの失敗を二度繰り返すことは避けなくてはならないことなのです。同じ失敗を繰り返さないためには、メンタリングを行ったり、プロジェクトの評価基準や目標を設定したり、ミーティングでしっかりと反省するといった常に学び続ける姿勢が欠かせません。
第2に、大人が学び続けているからこそ子どもが学べる環境を作っていけると考えているためです。ここで言う大人とは、教師です。教師が常に自分の授業の失敗や成功から学び、それを活かして次の授業をより刺激的なものにしていき、子どもたちがさらに学べるようなものにしていけば、子どもが教師の姿勢から学ぶこともあるでしょう。また、教師の努力で授業が進化し続ければ、子どもが新しい発見を得られると思うのです。
ひとりひとりが学び続ける環境を作るためにも、同じミッション、ビジョンに向かって信頼関係を構築したり、組織のメンバー全員が一緒に走っていることを確認したりする時間は、大切にしています。

やはりトップの主たる仕事はコミュニケーションになりますよね。

そうですね。NPOは金銭的な報いやボーナスがあるわけではないので、なおさら1つ1つのコミュニケーションに慎重にならなければいけません。スピード感をもって進んでいると、燃え尽きてしまう可能性も高くなってしまいますから。

松田さんは週にどのくらいメンバーとのコミュニケーションに時間を割いているのですか。

週に1日は、職員とのミーティングにあてています。ミーティングでは近況や最近感じている不安・疑問から、毎週提出してもらっている週報の内容まで話をしていきます。
私の主な仕事は外に発信をして人を巻き込んでいくことです。そのため、内部に割けない分は、適切な人をアサインしていますね。特にスタートアップのこの時期、誰をどの立場におくかはこだわりを持っています。