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ヘンケルジャパン株式会社(ディーナ・ウー 氏)


ヘンケル社のビジョン

ディーナ
今は世の中全体が国際化の流れにあり、人材活用やその基準も国際化が進んでいます。もちろん当社でも同じ流れにあります。国際化に適応するために欠かせないスキルの一つが英語です。地域単位での透明化が進むにつれ、ヘンケル本社からの異動も増えますし、日本からも海外に人材を輩出する機会が増えます。その際に英語でコミュニケーションが取れることは大前提となります。ですから当社でも、英語で双方向のコミュニケーションが図れるように特定の部署の人材には英語の学習機会を与えています。お互いに英語でやり取りをしたり、海外から日本に赴任してきた人を交えて話し合う等の練習も取り入れています。こうした取り組みはチャレンジングなことですが、社会や会社の変化に適応するために社員も意欲的に取り組んでくれていますね。

樋口:
変化への対応を進める、ということは非常に興味深いです。このような変化の中で、会社としての考えや方向性はどのように浸透させているのでしょうか。

当社は1年前にビジョンとバリューの見直しをおこないました。以前はバリューの数が多かったため、なかなか浸透しておらず、全てを暗記している人はごくわずかでした。そこで新しいビジョンとバリューが検討、導入されました。バリューについては、社員に覚えてもらうことを考慮し、「顧客」「社員」「財務実績」「サステナビリティ」「家族企業風土」という5つに絞り込まれました。

新しいビジョンやバリュー浸透のために何か特別な取り組みはされたのでしょうか。

社員全員にビジョン浸透のためのワークショップに参加してもらっています。この研修は部門ごとに実施し、これまでの3カ月間で70回、計700名以上の社員が参加しました。ワークショップでは部門リーダーがモデレーターとなり、用意されたワークシートを使ってヘンケルのバリューについて話し合いをします。ワークショップの目的はただ単にビジョンやバリューを理解することではありません。一番大切なことは、社員がバリューの方向性に共感し、自らその方向に行動するように促すことです。実際にこのワークショップでは、ビジョンを理解した上で、どのように日々の仕事に落とし込むか、どうすれば仕事が改善できるかまで話し合い、1グループに付き3~4つのアクションプランを出してもらいました。

とても徹底されていますね。全世界のヘンケル社で同じワークをされたとのことですが、そういった取り組み姿勢に国ごとの違いはあるものなのでしょうか。

わかる範囲でのお答えになりますが、少なくとも中国と日本の間には違いがあります。今回のワークショップを見ていると、日本の社員は変化の必要性さえ理解すれば、「絶対にそれをやり遂げる」という強い気持ちを見せてくれます。しかし、そこに至るまでのプロセスは他の国と比較すると少々長いように感じます。中国の場合は「変化させる」という意思決定のスピードはかなり早いという特徴があります。この違いの背景には、中国の市場環境があるのだと思います。中国は市場の変化がとても速く、生き残っていくためにはあらゆる変化への対応が必要とされます。ですから変化に対する免疫が日本より強いのでしょう。

やはり日本人は変化に慣れていない、ということがあるのでしょうね。少しお話を変えて御社の採用についてお聞かせいただけますでしょうか。


ワークショップ風景

日本企業では新卒採用が中心ですよね。当社の化粧品部門ではここ7~8年必ず毎年新卒採用をしていますが、当社の採用は中途採用が中心です。当社の事業部門の中には非常にニッチな物を扱っているという事情もありますので、そうした部門では専門のスキルや能力を求めているためです。

採用される際には、どのようなことを重視されているのですか?

特に中途採用ではスキルや能力の可能性をよく見るようにしています。たとえば能力は6つのポイントに集約できると考えています。一つ目は意思決定ができるか、二つ目は自らリスクを取れるだけの能力があるか、三つ目はクリエイティビティです。英語には“think out of the box”という言葉がありますが、枠を超えて柔軟に考える力があるかどうかを見ているのです。4つ目は分析力・判断力、5つ目は統率力、つまり判断した結果を他者に納得させる力があるかどうかで、そして最後に管理職としての能力です。やはり中途採用の人材は管理職として採用するわけですから、部下に対してコーチングができるか、どうやって人を育てるのかという能力も重要視しています。