経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.026 株式会毎日新聞社(西川光昭 氏)

株式会毎日新聞社(西川光昭 氏)

樋口:
最初の1年目が山場だとのことですが、その配属先はどのように決められているのでしょうか。

西川
本人の資質や希望、年齢や男女比のバランスも考えますが、実は最も大切にしているのは都道府県ごとの支局のトップである支局長と実質的な指導者となるデスクとの相性です。支局は大規模なところでも20名、小さな支局では5名程度といった小さな組織です。当然かなり家庭的な雰囲気になりますので、相性には相当気を使っています。

特定の支局で人材が伸びるといったことはあるのでしょうか。

結局のところはありません。もちろん支局によって環境は異なりますし、経験する仕事も違います。たとえば首都圏にある支局の場合は事件が多く、その話を聞いた事件の少ない地方の小さな支局の新人記者は「自分は何もやっていない」と焦ります。これに対して事件が少ない支局では、事件一つをとっても発生から裁判が結審するまでの一連の流れを全部一人で担当することができます。一方、首都圏の場合は事件が多い分、警察担当、裁判所担当といったようにその流れを複数名で分担することが多く、どうしても部分的にしか関われません。そのため首都圏の新人記者は「自分が何をやっているのかわからない」と焦るのです。つまり、どちらも一長一短なのです。ですから長い目で見れば、配属はキャリアにさほど関係ありません。「どこへ行くか」ではなく、「何をするか」だと新入社員には伝えています。

その「何をするか」というのは先輩社員や上司にゆだねられているのですね。

そうです。その中で指導者が新人の成長を見極め、ある程度成長したと判断したら署名つきの意見記事を書く機会を与えたり、さらに次の段階ではコラムを書く機会を与えたりといった具合に少しずつハードルを上げていくことで成長していくものだと思います。

現場での技能伝承の文化が根付いているのでしょうね。ところで新聞記者の評価やキャリア形成はどのようにされているのでしょうか。

副部長やデスクといった職位までは記事の内容で評価されます。つまり特ダネや発掘報道、自分にしか書けない記事をどれくらい書いたかが評価の指標になっています。新聞記者の場合は一般の企業とは異なり、管理職にならずに現場にずっといたいと考える人もたくさんいますので、途中からキャリアが管理職コースの人と記者専門コースの二手に分かれる形になっています。良い記事を次々に書き続ける記者は当然その内容を評価しますし、管理職になると部下をどう管理したかという点で評価しています。

大きな分かれ道だと思うのですが、その選択は個人にゆだねられるのでしょうか。

実は入社時には「希望は尊重しない」と社員に伝えていますが、実際にはできるだけ尊重するようにしています。

最後にまさにそのことをお伺いしたかったのですが、御社が人事において大切にされている点や今後の方向性についてお聞かせいただけますでしょうか。

当社は新聞社の中でも個性を尊重している会社だと自任しています。論調にしても「論争する新聞」というのを標榜していますし、「記者の目」というページではある記者の意見に対して別の記者が反論を述べるような記事が当たり前のように掲載されるという社風です。そのため、もともとバラエティに富んだ人材を大切にしています。2010年4月より共同通信に加盟しましたので、今後はさらに分析力や解説力を強化すべく、個性的な人材を集めていきたいと考えています。またネットメディアやフリーペーパーといった新しい媒体に対応していくためのスペシャリストを登用する取り組みも始めています。

それではこれからますます人材が多様になり、人事戦略がキーになってくるのでしょうね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

 

CompanyData

株式会社 毎日新聞社

■会社名:株式会社 毎日新聞社
■代表者:代表取締役社長 朝比奈 豊
■設 立:1872年(明治5年)2月21日
■所在地:(東京本社)東京都千代田区一ツ橋1-1-1
■URL:http://www.mainichi.co.jp
■事業内容 :
 ・日刊新聞の発行
 ・雑誌や書籍の発行
 ・メディア事業
 ・スポーツや文化事業の企画開催
 ・その他各種の事業