経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.021 株式会社サイバーエージェント(曽山哲人 氏)

株式会社サイバーエージェント(曽山哲人 氏)

「21世紀を代表する会社を創る」を目指し、急成長を続ける株式会社サイバーエージェント。事業内容だけではなく、社内活性化の取り組みでも知られる同社の取締役 人事本部長 曽山 哲人 氏に制度や取り組みの根底にある「サイバーエージェント流」人事へのスタンスを伺いました。

樋口:
御社は若手登用を積極的にされていますね。その中で特に活躍される方とはどのような方なのでしょうか。

曽山
素直であるというのが第一条件です。当社では素直な人材、もしくは素直になろうと決めた人材にまず機会が与えられます。またそのような人材はこうした機会を通じ自分なりに決断を繰り返し、その結果から更に学んでいきます。当社ではこれを「決断経験値」と呼んでいるのですが、この決断経験値を上げることが成長につながるのです。反対に素直になれない人にはそもそも経験の機会すら与えられませんので、結局実力に差が出てしまいます。

素直という表現は曽山さんご自身の経験から出てきた言葉なのでしょうか。

これは社長の藤田(藤田 晋 氏 株式会社サイバーエージェント代表取締役CEO)の言葉です。先輩の言うことや自分の失敗を認められる素直さは「変化対応力がある」と言い換えることもできます。違いを理解して受け入れる努力ができる人の方が大人に見えますし、結果的に成長角度も高くなります。

私もまさに同じことが大切だと思っています。ところで「決断経験値」とは高いポジションに身を置かせてマネジメントやトップとしての決断を経験させるということを指すのでしょうか。

決断経験値はポジションの高低に関わらず積むことができると考えています。たとえば営業で持参資料を準備するのに、自分で考えて準備するのと先輩に指示された通りに準備するのとでは大きな差が生じます。決断のレベルは後から振り返るとさほど重要ではなかったと感じることが多いものですが、これは決断経験を積むことで自分のレベルが上がっている証拠です。自ら決断することで、結果が成功であれ失敗であれ、それ自体が知見になります。ですからこうした経験を積むことで決断の容量が大きくなるのです。
たとえばレベルが上がってマネジメントをする立場になると、今度は決断範囲が自分からチームに広がります。自分のチームメンバー2名の連携がなかなかうまくとれないけれどどちらかが欠けてもチームにとって影響が出るようなケースの場合、どちらか片方を選ぶという選択肢もありますし、どちらも選ばないという選択肢も考えられます。いずれを選んだとしても明確な意思を持って決定したのであれば、仮にトラブルが起こったとしてもそれを学びとして捉えることができます。しかし決断できずにずるずると引き延ばしていた場合、決断できていないコンプレックスばかりが高まってしまって、結果から学ぶことができません。

決断経験値を一般的な言葉で表現すると「成功体験」に近いのでしょうか。

そうですね。ただし、我々の業界は失敗が多くて当たり前という世界なので、成功体験できない場合も少なくありません。そのような環境で成功ばかりを是としてしまうと、失敗を恐れるようになってしまいます。誰にでも保守的に考える気持ちはありますし、この景況感ですのでなおさら守りに入る風潮があって当然です。そういう意味でも失敗した人を辱めるのではなく、失敗事例を共有することはとても重要だと考えています。

事業環境に合わせた表現にされているのですね。お話がそれてしまいましたが、「素直さ」以外に御社で頭角を現す人材の共通点はありますか?

あります。それは「意思表明」です。「これをやってみたい」という想いをどれだけ表に出せるかによって自分のキャリアが決まるといっても過言ではありません。たとえば「社長になりたい」でも「こういう仕事がしたい」でも良いのですが、まず表明することで周りから反応が返ってきます。それには「それならばやってみたら?」と賛同が得られるラッキーな場合と「何言っているの?まだ早いでしょう。」と言われてしまう残念な場合がありますがそのどちらであっても経験になるということがポイントです。
そうは言っても、それまでの人生で意思表明をしてこなかった人にとって自分の意思を表に出すというのは非常にハードルの高いことです。ですからそのハードルをいかに下げるかは人事本部として注力しているところです。たとえば事業プランコンテストの「ジギョつく」や社内フリーエージェント制度の「キャリチャレ」は意思表明のハードルを下げるための取り組みの一つです。ただし、意思表明をした後のハードルは非常に高くしています。「ジギョつく」のグランプリは一つですし、「キャリチャレ」も人事部面談で本気度や現在の取り組み状況を聞き、「今はまだやりきれていない」と本人が言う場合、再度考え直してもらうこともよくある話です。意思表明をしない方が居心地がよいと易きに流れてしまうこともあるでしょうし、その方が目先の生活は楽かも知れません。しかし楽な方に流されると現状維持すらできず、下降してしまう可能性もあるので、社員には意思表明を奨励するメッセージを送り続けています。

そのような文化はかなり力を入れないと作れないものですよね。

作れないでしょうね。しかし、力を入れるだけのメリットがあります。
たとえば新卒採用の場面で社員100名にビジョンを問いかけた場合、答えられる会社はそうでない会社よりも魅力的に映るはずです。ビジョンが語れるということは自分の意思を表明する風土があるということです。ですから結局それが新卒採用の競争力につながるのです。そのため当社でも採用チームのメンバーには学生からビジョンを聞かれた時にきちんと答えられるよう、改めて自分のビジョンを考え直してもらうなどの働きかけをしています。